志磨遼平は捕まえられない。
志磨遼平は
捕まえられない。
私たち音楽リスナーというものは、意図せずしてそのバンドやアーティストに対して"イメージ"というものを持っている。
今回発売されたニューアルバム"平凡"
その初回限定版のAタイプに付属されているライブ映像"12月24日のドレスコーズ"のなかで
まだ髪の長い志磨遼平はこう歌った。
もしも 私があなたの好きな この長い髪切って
誰かの為に変わってしまっても 愛しているの?
これが伏線だったのか、彼は長い髪を切った。
そんな"イメージ"を毎年毎年裏切って来るのが志磨遼平。
正直に言って、今日本で最もエキサイティングなバンドなのではないだろうか。
ドレスコーズ改め、志磨遼平。
つまり概念、そして流動体のような。
2012年の元旦には高円寺U.F.O.にて「ドレスコーズ」としてライブ。
そして2014年には志磨遼平以外のメンバーが全員脱退。
彼はこのことについて次のように語っていた。
「CDを作るときに、僕は僕だけのメッセージじゃなくバンドメンバー全員のメッセージを組み込まなくてはならなかった。」
その後アルバム"1"を発売。
そのリリースツアーとして“Don’t Trust Ryohei Shima"を敢行。
このツアーファイナルには私も観に行ったが、あれこそまさに事件であった。
“Don’t Trust Ryohei Shima"のツアータイトルにふさわしく一曲目から毛皮のマリーズ時代の曲を連発したかと思えば、最新曲も演奏し、、と。
自身の膨大な曲のなかから、時系列など関係なく洪水のように演奏した。
そしてそのライブ中に演奏した楽曲のなかで 一貫していたのは"ひとり"というテーマだ。
それはまさにやりたい放題で、日本で志磨遼平ただ一人がなせる業であった。
ドレスコーズ - 「愛に気をつけてね」 from “Don't Trust Ryohei Shima" TOUR 〈完全版〉
そして2017年3月"平凡"を発売。
バケモノ的アルバムに仕上がっている。
このアルバムの構成をざっとまとめると
1~3曲目でリアルタイム、日本の現状を写実的に歌い、
4~6曲目でそのセカイでも「ダンスを踊ろう」と、
そして最も難解なのが7~11曲目。
志磨遼平自身はインタビューの中で、今作についてこう語っている。
俯瞰という感じ。自然とそうなりますね、やっぱり。だからメッセージではない。「の、ようなもの」ですよ。僕は一切、現状を悲観もしてないし、べつにそこに危機感を抱いてないし。抱いてるのは自分の創作。リズムとかね、ビートとか、そういうものにだけであって、自分がただ流れていくことに危機感はあるけれど別に世を憂いてもないし。だからこれを聴いて「みんな、目を覚ませ」みたいなことは1ミリも思わないですよ。
うーむ。難しい。
実に難解で、実に奥深い。
しかし今作の素晴らしいところ(というかドレスコーズ作品に共通して言えることではあるが)楽曲の完成度が本当に高い。
故にこのアルバム、リスナーがなんのメッセージを汲み取ろうとしなくても十二分に楽しめるし、
私のような捻くれたリスナーが聴いても底なし沼のようにどっぷり浸かってしまう。
もしかして、これが志磨遼平の狙い?
私たちはまた彼の術中にかかってしまっているのだろうか。
毎年アルバムを出す彼はインタビューのなかでこう語る。
志磨:さすがに、ちょっとそういう状況に戸惑いを覚えて。去年、デビューしてから初めて「今年だけ、ちょっとアルバム出すのは止めてみていい?」って自分から相談したんです。僕は音楽を作るのが大好きだし、アルバムを作るのも大好きだから、出そうと思えば出せるんですけど。
―はい。志磨さんが言うその言葉が虚勢でないことはよくわかります。
志磨:でね、そういうことに疑問を感じているミュージシャン、バンドマンは僕だけじゃないと思うんですけど、一度、徹底的にその仕組みについて考えてみたんですよ。で、出た答えは簡単でした。
―その答えは?
志磨:アルバムを出さないと忘れられる。
―なるほど。
志磨:僕も、そうやっていくつものバンドを忘れてきたからわかるんです。
前述した通り、"平凡"はとても息の長いアルバムに仕上がっている。
私はふと中学生の頃にエヴァを見たときのことを思い出した。
考察サイトを漁り、アニメ映画漫画と何周もし、、。
あのときの楽しさが今の自分に蘇っている。
消費消費、「アートの洪水」が巻き起こってる現代に
最も大きく、最も重たく、最も息の長い記念碑のような作品を彼は作り上げたのだ。
そしてオリジナリティーがなんだ/オマージュがなんだ言われる今の時代に対する作品という意味で、音速で優勝台に立ったのである。